東北大学大学院工学研究科 次世代航空機研究センター

【次世代航空機研究センターについて】  国産旅客機の開発が進められ、国内における航空機業界は新たな時代を迎えようとしています。 この国産旅客機の開発は、欧米メーカーに依存しない、我が国における独立した技術の確立という観点からも大変重要です。 これら航空機の開発には構造、 材料、流体の各研究分野、また不確かさの定量化やデータ同化などの研究分野との融合といった多面的な学術的なサポートが必要でありながら、産学間の融合 ・連携が十分であるとは言えない現状があります。 特に、世界に先駆けた次世代の航空機を提案・開発するためには、企業の現場の課題意識や力学に基づき 学術的な知見を融合することが必要不可欠です。 本学、航空宇宙工学専攻と流体科学研究所では、国産旅客機等の航空機開発に参加している研究者が多く、 大変ユニークな産学による共同研究を行っている実績があります。
 そこで東北大学大学院工学研究科次世代航空機研究センターでは、理論および計算力学を基盤とした構造、材料、流体の各研究分野、また不確かさの定量化や データ同化などの研究分野との融合分野の研究を推進する「研究重視」のセンターとして、基礎学術研究の発展をリードするとともに、得られた学術研究成果を 基に実際の航空機開発に貢献していくことを目指しています。本研究センターは、大学院工学研究科 航空宇宙工学専攻の岡部朋永教授(材料・構造分野) および河合宗司准教授(流体分野)を共同センター長とし、本学航空宇宙工学専攻と流体科学研究所に所属する10名の教員を中心に運営され、現在NEDOを 始めとする数多くの研究プロジェクトを推進しています。


【研究センターでの取り組み】  本研究センターでは、以下の4つの研究テーマをセンターの柱とし、研究に取り組みます。   ・デジタルフライト
  ・コンピュテーショナルマニュファクチャリング
  ・バーチャルテスティング
  ・マルチスケールモデリング

  デジタルフライト_
 

   飛行する航空機は、その後方に揚力に応じた強さの渦対を形成し、渦対を含む気流と乱れた気流は後方乱気流と呼ばれています。 後続機がその影響を受けることから、先行機および後続機の大きさに応じて空港での離着陸間隔が定められています。近年、航空交通量の増大から離発着数制限の緩和が求められて おり、安全かつ効率的な運航のために離発着時の後方乱気流の挙動に関する検討が世界中で活発に行われています。本研究では、ライダー(光学レーダー)を用いた実運航機の後方 乱気流の計測結果を、データ同化法により数値流体力学シミュレーションに融合し、後方乱気流の移流・崩壊過程の理解とそれに基づく簡易後方乱気流予測モデルの高度化を目指し ています。 

  コンピュテーショナルマニュファクチャリング_
 

   航空機開発においては納入時期の遵守が大変重要です。もし、納入が遅れると多大な違約金が生じます。そこで、開発の初期段階 から開発全体を見越したシームレスな設計を計算機内にて行おうという試みがあります。これはドイツで提唱されるIndustry4.0と同じ発想です。本センターでは効率的かつフレキシ ブルなスキームの開発を目指しています。

  バーチャルテスティング_
 

   航空機が実際に飛ぶ前には認証というプロセスを経て、安全が保障されなくてはなりません。この認証というプロセスは多岐に 亘り、細かく調べ上げ、積み上げられるためビルディングブロック方式と呼ばれます。しかし、あまりに時間とコストがかかってしまいます。そこで、計算機で確認できる部分は確 認してしまおうというのがバーチャルテスティングです。
 

   航空機周り流れの高精度数値シミュレーションに基づくバーチャルテスティングを実現するには、非定常な圧縮性乱流現象の高 忠実なシミュレーション技術や注目する諸量や流れ場が様々な不確かさ要因に対してどのような応答を示すか定量的に評価する技術が必要となります。本研究では、航空機周り流れ の高忠実な数値シミュレーションを実現する高精度数値計算手法の開発や不確かさの定量化手法の開発を行い、今までは高精度な予測が困難であったフライトエンベロープ境界付近 を含めた飛行領域全体の高精度な流れ現象および空力予測を目指しています。

  マルチスケールモデリング_
 

 
 計算機性能が上がってきて原子や分子といったオーダーの現象から目に見えるスケールを説明できるようになってきました。 本センターでは独自のアルゴリズムを考案し、このチャレンジングな課題に取り組んでいます。
 

   航空機周りの流れは高レイノルズ数条件下の乱流状態にあり、実際の高レイノルズ数乱流現象の高精度な予測は航空機開発を行 う上での重要課題となっています。高レイノルズ数条件下では、流れは空間・時間方向にブロードバンドなスケールを持つことになります。本研究では、高忠実な数値シミュレーシ ョン技術の航空分野への実用化に向けて、LESにおける境界層内層乱流モデリングの研究を推進し、実スケール(実高レイノルズ数)での高精度な乱流境界層現象や航空機空力性能 の予測を目指しています